なぜ今「FiO₂」を正しく理解する必要があるのか
酸素療法や人工呼吸管理において、FiO₂(吸入酸素濃度)は最も基本かつ重要な指標の一つです。SpO₂やPaO₂の数値だけを追うと、過剰酸素や酸素化不良の見落としにつながることがあります。臨床工学技士・看護師がFiO₂を“数値”ではなく“戦略”として扱えるよう、本記事では定義から計算、デバイス別の目安、PEEPとの関係、トラブル対応までを実務目線で整理します。
FiO₂とは?
FiO₂(Fraction of inspired Oxygen)は、患者が吸気として取り込む酸素の割合(濃度)を表します。室内気は約21%(FiO₂ 0.21)。酸素投与でFiO₂を上げれば、肺胞気酸素分圧(PAO₂)が上がり、結果として動脈血酸素分圧(PaO₂)の上昇が期待できます。
ただし、肺の換気/血流不均衡(V/Q不均衡)やシャントが強いと、FiO₂を上げてもPaO₂が上がりにくい状況が生じます。このときはFiO₂単独ではなく、PEEPや体位・分泌物管理などの併用が鍵になります。
計算のキホンと関連指標
アルベオラーガス方程式(概念)
肺胞気酸素分圧は概ね
PAO₂ ≒ FiO₂ ×(Patm − PH₂O) − PaCO₂ / R
で表されます(海面上ではPatm≈760 mmHg、PH₂O≈47 mmHg、R≈0.8)。FiO₂を上げるとPAO₂は上がりますが、PaCO₂上昇や拡散障害、シャントがあれば十分なPaO₂上昇にならないこともあります。
A–aDO₂
**A–aDO₂(肺胞–動脈酸素分圧較差)**は、PAO₂とPaO₂の差。拡大していればガス交換障害の示唆になります。FiO₂を上げてもA–aDO₂が大きいままなら、シャント優位や無気肺などの原因評価が必要です。
P/F比(PaO₂/FiO₂)
P/F比は酸素化の程度をFiO₂に対して評価する簡便指標。値が低いほど酸素化が悪化しています。評価はFiO₂と同時にPEEP設定も考慮して行いましょう。
デバイス別:FiO₂の目安と使い分け【早見表】
室内気=約21%。FiO₂は装着状態・口呼吸・リーク・呼吸パターンで変動します(あくまで目安)。最終判断は施設プロトコルと医師指示を優先。
| デバイス | 推奨流量/設定 | 目安FiO₂ | 使い分けのポイント・注意 |
|---|---|---|---|
| 鼻カニュラ | 1 L/min | ≈24% | 乾燥防止に加湿。鼻閉・口呼吸で低下。 |
| 2 L/min | ≈28% | 3〜4 L/minで鼻内刺激・乾燥に注意。 | |
| 3 L/min | ≈32% | ||
| 4 L/min | ≈36% | ||
| 5 L/min | ≈40% | ||
| 6 L/min | ≈44%(上限目安) | 6 L/min超はマスク/高流量への切替検討。 | |
| シンプルフェイスマスク | 6–10 L/min | ≈40–60% | 6 L/min未満は再呼吸リスク。会話・食事で外す→SpO₂変動。 |
| 部分/NRBリザーバーマスク | 10–15 L/min | ≈60–90% | バッグ半分以上膨張を維持。弁・接続の確認必須。短期の高FiO₂に。 |
| ベンチュリーマスク | 24/28/31/35/40/50% | 表示値どおり | 一定FiO₂が欲しい時。流量はアダプタ指定に準拠。乾燥に注意。 |
| HFNC | 流量30–60 L/min、FiO₂ 0.21–1.0設定 | 設定FiO₂に近づく | まず流量で呼吸仕事量↓、次にFiO₂で酸素化↑。リーク少ないほど意図値に近い。 |
| NPPV(CPAP/BiPAP) | FiO₂ 0.21–1.0設定 | 設定FiO₂に近づく | マスクリークで実効FiO₂低下。フィット調整を。 |
| 人工呼吸器 | FiO₂ 0.21–1.0設定 | 設定値(リーク少なければ) | 酸素化はFiO₂+PEEPの両輪。高FiO₂長期は回避。 |
目標と調整:FiO₂をどう設定・微調整するか
- 目標SpO₂/PaO₂は施設プロトコルに従います(例:一般にSpO₂ 92–96%/CO₂貯留リスクがあるCOPDなどは88–92%を目安とすることが多い)。
- 上げる時の順番:HFNC/NPPV/人工呼吸器では、先に流量(風量)で呼吸仕事量を下げ、次にFiO₂で酸素化を詰めると安定しやすい。
- 下げる時:目標域で安定継続(例10–15分以上)を確認し、小刻みにFiO₂低減(0.05–0.10刻み)→再評価。
- 改善が鈍い:FiO₂をむやみに上げ続けず、PEEP併用・体位・分泌物対策を同時に検討。
FiO₂とPEEPの関係(人工呼吸器管理)
酸素化は**FiO₂(酸素供給)とPEEP(肺胞開存)**の両輪で改善します。FiO₂だけ上げても、虚脱肺胞が開かないままではシャントが残り、P/F比は改善しません。
- **PEEP/FiO₂テーブル(概念)**を目安に、過膨張や循環影響(血圧低下)に注意しつつ段階的に調整。
- リクルートメントの考え方:過度な圧は避け、最低限のFiO₂で目標酸素化を満たせるよう、PEEPで支えるのが基本方針です。
トラブル対応:FiO₂を上げてもSpO₂が上がらない時
FiO₂↑でSpO₂が反応しない時は、機器・患者・測定の3視点で60秒点検を。
| カテゴリ | まず見る所 | 対処の例 |
|---|---|---|
| デバイス/機器 | 酸素源ON/残圧、流量計、加湿瓶差圧、回路の捻れ/外れ、マスク/カニュラ装着、リザーバー膨らみ、弁作動、設定アラーム | 接続差し直し、流量適正化、弁やバッグ交換、リーク修正、機器再起動 |
| 患者 | 体位、分泌物/喘鳴、無気肺徴候、努力呼吸、意識/循環、冷感/チアノーゼ | 体位調整、吸引・加湿、陽圧補助(HFNC/CPAP)、鎮痛/不安軽減、循環評価 |
| 測定 | プローブ位置、冷指・動き、マニキュア、低灌流、機器不良 | 別部位で再測、保温、機器確認、必要に応じABG |
FiO₂調整フローチャート(成人一般)
目標SpO₂は施設プロトコルに従う(例:一般 92–96%、CO₂貯留懸念 88–92% など)。
- 評価:SpO₂・呼吸数・努力呼吸・意識・循環。
- 装着確認:リーク/流量/接続/酸素源。
- 初期介入:軽度→鼻カニュラ1–2 L/min。中等度→マスク/HFNC/NPPVへ。
- 微調整:先に流量、次にFiO₂。安定したらFiO₂を小刻みに減量。
- 併用:改善乏しければPEEP(CPAP/PEEP 5→8→10…)+原因アセスメント。
- 悪化/不応:無気肺・分泌・浮腫・気胸・循環を再評価→上位介入と医師コール。
安全域とリスク:高FiO₂の副作用と回避策
- 酸素毒性:高濃度酸素の長時間投与は肺障害や吸収性無気肺のリスク。可能な限り低いFiO₂で目標酸素化を維持。
- CO₂貯留:CO₂保持傾向(例:一部COPD)では過剰酸素に注意。目標SpO₂レンジを厳守。
- 乾燥・火災リスク:加湿・スキンケアと、酸素周りの火気厳禁を徹底。
症例シナリオで学ぶFiO₂運用(要約)
- 救急:SpO₂ 84%、努力呼吸→HFNCで流量先行、次にFiO₂調整。分泌吸引・体位も同時進行。
- 病棟夜間:低酸素アラーム→装着/リーク/体位を即確認、必要なら一段階上のデバイスへ。
- ICU/術後:FiO₂上限に近づいたらPEEP併用でFiO₂低減を図る。
- 在宅:HOTの設定逸脱や装着不良、感染兆候の教育と再評価ルーチン化。
よくある質問(FAQ)
Q. ベンチュリーマスクの%はどう選ぶ?
A. 医師指示の目標SpO₂をもとに、固定FiO₂で段階的に評価できるのが利点。24–35%から始め、反応で調整。
Q. HFNCで先に動かすのは流量?FiO₂?
A. 苦しい時は流量先行で呼吸仕事量を下げ、安定後にFiO₂で酸素化を詰めるのが基本。
Q. NPPVでリークが多いとFiO₂は当てになる?
A. 実効FiO₂は低下しやすい。マスクフィットとリーク対策が先。
Q. FiO₂を下げ始めるタイミングは?
A. 目標域で安定が持続(例10–15分以上)、呼吸努力が許容範囲なら小刻みに減量→再評価。
FiO₂を“数値”でなく“戦略”として扱う
FiO₂は酸素化を達成するうえでの調整ノブであり、PEEP・体位・分泌管理・循環と組み合わせて最適化します。
- できるだけ低いFiO₂で十分な酸素化を目指す
- 上がらない時は原因評価→デバイス/患者/測定の順でチェック
- 施設プロトコル・医師指示を最優先に、段階的に介入・離脱する
本記事の数値は目安です。判断は各施設のプロトコルと主治医の指示に従ってください。
